交通広告。紙にする?デジタルにする?

「デジタルデトックス」という言葉をご存知だろうか。デトックスとは溜まった“毒素”を体外に排出させることを言う。つまり、スマホやPCと距離を置き、メールやSNSによる疲れ、ストレスからの解放を意味している。
本コラムは、そんな社会的なデジタルの話ではなく、当社の扱う交通広告におけるデジタル媒体と、昔ながらの紙媒体それぞれの特徴を改めて見つめ直すものである。

紙媒体が迎えた節目

 平成元年生まれの筆者にとって、“デジタル”という言葉との出会いは、デジタルカメラだったと思う。(いや、デジモ○だったかも)メモリーカードの容量次第でいくらでも撮影可能で、編集や削除もできることに父親が感動していた。近年、IT技術の進歩で身の回りのデジタル化は加速度的に進んできた。スマホという板チョコサイズのデバイスがあれば、電話もカメラもパソコンも新聞も本も手帳も持ち歩く必要がない時代である。インターネットの普及により人や会社、サービスが分け隔てなく繋がり、時間とお金の使い方がずいぶん変わったように思える。普及に並行してインターネット広告費の成長は続き、2019年にテレビメディア広告費を超えた。
 
 インターネットの発展とデジタル化の勢いに押され、さまざまなジャンルで見直されているのが紙媒体である。広告業界においては、新聞広告費、雑誌広告費が年々減少の一途を辿っており、廃刊・休刊という単語が目立つようになった。本、漫画、雑誌は、スマホやタブレットで読む人が増えた。読み放題のサブスクリプションサービスも勢いを増しているので、そもそも書店に足を運ぶ必要もない。ちなみに筆者は読むなら手に取って読みたい派ではあるが、購入はもっぱらオンラインなので、昔のように新刊を求めて書店をはしごすることもなくなった。

車内の広告。実は意外と…

 ここからは当社が主に扱う交通広告に的を絞っていく。交通広告の世界でもデジタル化は進み、紙媒体を見直したいという声が多い。JR東日本が山手線に車内ビジョン(トレインチャンネル)を搭載してから20年ほど経過するが、各社も続いて搭載をはじめ、面数は年々増加している。駅のデジタルサイネージも導入・拡大が続き、最近は16:9という画角にしばられない、巨大な板面でインパクトのある映像を見かけるようになった。デジタル媒体の利点として、放映素材の汎用性が挙げられる。紙媒体は印刷費が発生するが、デジタル媒体は放映用の素材さえ作ってしまえば大体の媒体で使い回すことができるので、制作費の観点からもコスパが良いといえる。また、クリエイティブの幅も広くて目を引きやすい。実際、交通広告市場で数字を伸ばし続けている。一方、紙媒体は対極的な立場だ。大手出版社が長年続けていた中づりポスターの出稿をとりやめることがニュースになっていたのは記憶に新しい。このまま紙媒体は過疎化の一途を辿るのだろうか。否、それでも紙媒体にしかない魅力があるのだ。
 
 交通広告が直面している課題の一つが、スマホである。歩きスマホ云々ではない。ほとんどの乗客が乗車中に見ているのがスマホの画面である。SNSのチェック、動画視聴など目的はさまざまだが、乗客のほとんどがスマホを操作している印象である。車内の広告は誰も見ていないという意見が寄せられるのも無理はない。とはいえ、車内の広告が見られているのもまた事実である。例えば東京メトロ利用者のうち、中づりポスターは43.5%、まど上ポスターは40.7%の人が広告を見たと答えている。しかも年代別で最もその数値が高いのは、男女ともにスマホに没頭していそうな10代なのである。(※弊社実施「広告効果調査」)

そこに在り続けてこそ

 交通広告の特徴としてよく挙げられるのが、強制視認性と反復訴求性である。前者は、SNSやテレビの広告とは異なり、意識していなくても目に入ってしまう性質のことであり、後者は通勤・通学時など日常的に繰り返しリーチできることを指す。スマホに没頭しているにも関わらず広告が見られているのは、まさしくこの強制視認性によるものだ。そして大切なのは、広告が目に入った時に、記憶するほど見られることが先の視認率につながっていることである。デジタルサイネージの利点を、素材の汎用性とクリエイティブの幅と述べたが、弱みの1つとして挙げられるのが、常に放映されるわけではない、という点である。東京メトロの車内ビジョン「Tokyo Metro Vision(TMV)」は、15秒単位の動画を基本として、週毎に作成される番組リストをリピート放映しているため、広告が“ふと”目に入った瞬間に重なるとは限らない。しかし、これが紙媒体ならどうであろうか。
 
 紙媒体の最大の特徴は常にそこに在ることである。ふと目に入ったポスターは、視線をそらさない限りそこに在り続けるのだ。行きの電車でみたポスターは、帰りの電車でもそこに在る。先に述べた反復訴求性である。そして紙媒体はしっかりと読み込むことができる。動画では追い切れなかった会社名、サービス名、キーワードも、紙媒体は自分のペースで好きなだけ読み込むことができる。改めて、なかなかのポテンシャルではないだろうか。スマホの話から車内広告におけるデジタル媒体・紙媒体それぞれのメリット・デメリットについて述べてきたが、駅の広告にも同様のことが言えるだろう。さらに駅広告は車内広告よりもサイズ感が大きく、立体的な演出なども可能である。特殊な事例もさまざまだ。
 
 筆者は紙媒体至上主義ではないが、“紙だから”と安易に敬遠されてしまうのが勿体無いと感じている。本コラムも電波と電源が無いと閲覧いただけないが、もしタブロイドであったならば、いつでも読めるだろう。屁理屈のようだが、大規模な通信障害で実感した人も少なくないのではないだろうか。デジタルと紙。それぞれの特徴を踏まえて交通広告をご検討いただくにあたり、本コラムが選択の一助になれば幸いである。

コラム一覧に戻る