生成AI流行におけるメディアの変様

2022年後半、ChatGPTの発表を皮切りに、急速に広まった生成AI。この人工知能の形態は、テキスト、画像、音声、動画など、さまざまな形式のコンテンツを「生成」できる特性から、これを「生成AI」と呼ぶようになりました。
生成AI分野は常に新たなニュースが絶えず、その影響は絵の生成からテキストの生成まで、広告業界とは切っても切り離せないほど密接な関係にあります。
今回はそんな生成AIが普及することによるデジタルメディアの変化について取り上げていきます。

生成AI業界の動き

数年前までビジネス上におけるAI・人工知能といえば、多くの画像や数値データを学習させることで、写真や動画内にどんな物が写っているか、写っている人物が何をしているか、自動車の自動運転のために周りの車や人がどのように動いてくるかを判断するためなど、ある分野に特化させた分析や予測を行う装置として捉えられていました。しかしプログラムを使わず人が喋る言葉そのままでやり取りができる新たなAIが生まれたことで、今までは一部の業種や役割の人が機械学習やデータサイエンスといった形で関わっていた特殊な業界という垣根がなくなり、誰もが触れて使うことのできる便利な道具となりました。

ここで生成AIに関して力を入れている大手各社の動きを紹介します。Microsoft社はChatGPTを提供するOpenAI社に出資しパートナーシップを組み、Google社は生成AIのBirdを公開しGeminiという新たなAIシステムの開発も発表し話題になりました。ほかにもApple社はApple GPTを、Amazon社は生成系AIアプリの構築を支援するAmazon Bedrockを、Meta社はプログラムコード生成AIのCode Llamaといったように各社がこぞって開発をしています。また、こうしたBig Techと呼ばれる有名企業だけではなく、スタートアップ企業の多くも生成AIに注目したサービスを開発し、一般消費者が自由に使えるようになってきています。
そんな生成AIですが一般の方が触れるようになってから、生成されるものに対する「信頼性」が注目されるようになりました。生成AIは学習したものをベースに生成するため、学習していないことや学習量が少ないことに関しては答えられず、間違ったことを生成してしまうケースがあり問題視されています。そうした間違ったものを生成せずに信頼性を高めるためには、常に新しくそして正しいデータを大量に学習させていく必要があります。

AIによるAIのためのAIでできたメディア

機械学習のデータというと、今までは例えばネットショップで購入したデータや動画サイトで見た動画の傾向といった、行動データが主な学習データでした。一方最近は、生身の人間と遜色のない会話をするための会話自体や反応に関するデータ、反応の良い写真やイラストとその説明文章、絵と言葉を可逆的に説明できる文章といったデータの価値が高まっています。
そこで注目されているのがSNSになります。X(旧twitter)はすべての投稿がAIの機械学習に利用されるということがニュースになったことがありましたが、自社サービスにおけるユーザーの行動データはその会社が利用できるのは当たり前ですので、Xの競合各社が多くの新しいSNSをリリースしたことも、自社で扱うことができる学習データをより多く集めるためとも考えられます。言い方を変えると、そうしたAIの学習のために用意された環境で、一般消費者は消費活動をしていることになります。近い将来、スマートフォンやPCで見るデジタルメディアでは、一般消費者が書き込んだ内容が学習データとして利用され、各企業が生成AIを利用して最適化された広告が同じメディアに並ぶという、AIによるAIのためのAIでできたメディアとなり、SNSなどのデジタルメディアというのは一般消費者にとっては信頼感に疑問が残るメディアになってしまう可能性が考えられます。

信頼性を求める時代

ビジネスの面で考えると、生成AIの登場はデジタルメディアの広告のクリエイティブコストを抑えしたり、バリエーションを容易に増やせることでABテストによるマーケティングを加速させることができるなどの大きなメリットがあります。しかし一方ではデジタルメディア自体が先述したようなAIによるコンテンツばかりになる上、注目を集めるだけのフェイクニュースが混在してしまう可能性があり、メディアとしての価値が下がり広告媒体として信頼性が損なわれる可能性が推測できます。
電車の中づりや駅広告と言ったOOH広告は生成AIの登場に全く影響がないとは言えませんが、デジタルメディアよりも広告の審査基準が厳しいためOOH広告の価値自体はまだまだ普遍的なものとして捉えられるかもしれません。むしろ、SNSよりも信頼された情報として受け入れられつつ、さらにMR(複合現実)やXR(クロスリアリティ)といった新たな技術によって、OOH広告が更に進化し、ユーザーを楽しませる時代が来るかもしれません。
生成AI登場により広告に対する信頼性が今までに問われると考えられます。そうした時代でも安心して掲載できる場を提供することが、これからの広告代理店に今まで以上に求められることになっていくでしょう。

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